Trans Eurasia Express since 2002

 
is a quarterly articles series, now kindly hosted by H.I.S. London (until No.49 by H.I.S. Touristik Deutschland GmbH) on interesting trains and other means of transportation in Europe, Asia and other corners of the world, with technical, historical and cultural interests. All photographs, sounds and videos are taken by the author unless otherwise expressly mentioned.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
75. 箱根八里は乗物天国 II.

― 陸路も水路も多士済々 ―
Rides around Hakone Volcano II.
今回の撮影地: 日本 フランス

瀧廉太郎の「箱根八里」で天下の嶮と謳われた箱根は、軍事的理由で未架橋だった大井川と並ぶ東海道の難所だった。「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」という唄もあるので箱根の方は産業革命前も騎行はできたようだが、雨で泥濘化すると馬が通れなくなるので石畳区間もあった。とはいえ馬や駕籠を使える階級以外にとっては、全区間徒歩かつ長旅の重荷を担いでの山越えという難所だった。



今も一部残る箱根旧街道を、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康等の戦国の英雄達も通った筈だ。
VIPも市井も同じ空間を共有するこの感覚は、今日の国際線航空機に近い。「参覲交代諸大名
休息処」と掲出された箱根甘酒茶屋では江戸時代の箱根越えに用いられた駕籠が見られる。
The Hakone-pass was one of the most demanding sections along the Tokaido
main route which connected Edo in which the bakufu-military government was
based (today: Tokyo) and Japan's ancient capital, Kyoto.

しかし今日の箱根は我々一般市民が老人も子供も火山の3D景観を手軽に楽しめる様々な乗物が発達し、これら乗物だけを目的に訪れても楽しい位だ。2020年に人類を襲ったコロナ禍は国境を越えた移動を難しくする反面、灯台下暗しだった近場の名観光地の面白乗物群を再発見する好機にもなった。



上:Wikipedia掲載の箱根火山地図に路線を加筆。下:県道75号線天閣台~大観山から望む芦ノ湖と富士山。
一時は標高2700mもあった箱根火山が噴火で崩壊し早川が堰き止められてできたカルデラ湖が芦ノ湖だ。
Hakone volcano has erupted many times, and within its complex outer rim is a crater called Owaku-
dani and a caldera lake called Ashinoko. The golden route for sightseeing in Hakone is to go from
Odawara, the eastern end of the volcano, via Owakudani and finish with a cruise on Lake Ashinoko.

何度も噴火を繰り返した箱根連山の二重外輪山東麓の小田原から登山電車・ケーブルカー・ロープウェイ・船を乗り継ぎ、噴火口を越えカルデラ湖を遊覧する火山巡りゴールデンルート全区間を小田急グループが運行している(駅ナンバリング冒頭の路線記号も新宿駅から元箱根港まで田急根登山のOHで統一されている)



上:右のレールから順に箱根登山車専用・小田急車専用・両車共用。下:共用区間
で縦に並んだ両社のエース同士(小田急VSEと箱根登山3000形アレグラ号)。
One section of the Hakone Tozan Railway is equipped with an additional rail
so that the direct trains from Tokyo with a narrower gauge can also operate.

箱根登山鉄道・小田原~箱根湯本間の40‰準平坦区間(80‰の箱根湯本~強羅間の半分の勾配とはいえ、JR全線の最急勾配と等しい)はほぼ半数が新宿直通の特急で、恰も小田急の 一部の如く運用されている。またこの区間は狭軌(1067mm)の小田急車が走れるよう全線狭軌で、車庫のある瓜生田~箱根湯本の1区間のみ国際標準軌(1435mm)の箱根登山車も走れるよう3線式となっている。瓜生田以東は小田急車しか走らず傍目には小田急湯本線だが、軌道インフラは箱根登山鉄道所有なので一種の上下分離といえようか。



小田原城脇のRhB1等車塗色の小田急1000形と小田原駅名物の大提灯。

小田原~箱根湯本の各停は、脱稿日現在4両編成の小田急1000形で運転されている。一部は箱根登山鉄道と姉妹協定を結んでいるレーティエン鉄道(Rhätische Bahnレーティッシェ・バーン、略称RhB)の黄色帯付1等車色に塗られているが、車内は4扉ロングシートの通勤電車のままなので筆者は密かにミートホープ号と命名している。



開成駅前で静態保存される小田急3100形。2階運転席も見学できる。連接車の展示は運転席と反対
側の台車をどう処理するか見もので、開成では出入口台として使用している。同じく連接車のフラン
ス国鉄SNCFのガスタービン試作車TGV001(下、第49話参照)は連接台車側を植栽で隠していた。
Series 3100 (since 1963) was the first train of Odakyu Electric Railway which featured
observation lounges at both ends of the train sets. Some ingenuity is needed to display a
carriage with a jakobs bogie - in case of TGV001, the bogie is hidden with plants, but in case
of Series 3100 preserved car, it has been converted into a platform for the visitor's walkway.

現在の小田急特急は汎用の30000形EXEを含め性格の異なる様々な車種があるが、本稿では花形の前面展望車のみご紹介する。運転席2階方式の前面展望車の日本元祖は名鉄7000形小田急3100形だ。前者は近鉄ビスタカーと並んで高度成長期の日本の私鉄特急を代表する意欲作だったにもかかわらず惜しくも全車廃車となった。これに対して後者は開成駅前と2021年開館のロマンスカー博物館で静態保存されている。1階最前部に展望席を設けたこの楽しい構造の源流は1950年代設計のイタリア国鉄FSのETR300形イル・セッテベッロIl Settebello号(The Seven Beautiesの意)だ。今日の観光特急で多用される1階運転席+展望席ハイデッカー方式と比べ、軌道が前方目前を流れ、より臨場感がある。



前衛的なデザインの車両が鄙のローカル線で薄をそよがせる様子は絵になる
Series 50000 is Odakyu's 4th generation with observation lounges.

1階前面展望+連接構造+低車高+大型窓を組み合わせた意欲作だった3100形は、ほぼ半世紀前の1963年登場という古さにもかかわらず灰色を上手に使うと近未来感をこうもうまく表現できるのかという配色の見本のような車でもあった。この配色は3000形(1953年の高速試験で時速145キロという当時の狭軌世界記録を作った)から7000形(3100形の後継車)まで小田急特急のシンボルだったが、1987年登場の10000形以降塗色はコロコロ変わり、車体も平凡なボギー車となり、1991年の20000形からは1階前面展望も廃止され、「特別感」は失われた。しかし2005年登場の50000形VSE車は、1階前面展望と連接構造が復活した。1枚の大型曲面ガラスとなった前面はライト配置が独特 で、どことなく昆虫のような顔だ。



VSEの前面展望(上)と車内。全ての座席が僅かに外側を向くのが観光列車らしい。
Being a sightseeing train, all seats in open coaches are facing slightly outward.

車内は車高を下げた3100形の逆を行き、欧州の客車のように屋根を丸く張り上げ(VSEのVはvault丸天井から採用)、車内空間を稼いでいる。座席は僅かに窓側に向けて配置し、狭く固いながらも準区分室車(左下)もある。赤帯を巻いた白い車体は、断面が丸い大陸欧州の客車式の張り上げ屋根も相俟って少しドイツ鉄道DBのIC客車のようだ。



箱根湯本~瓜生田間の3線区間を行くGSE

2018年登場の70000形は、VSEの1階前面展望・2階運転席構造を維持した。赤一色のボディ・ 展望席上部左右の前照灯・車体側面の大型連続窓・ボギー台車という組み合わせは名鉄7000形の再来を見る思いだ。GSEという愛称のGは優雅なgracefulからとったそうだが、筆者的にはノスタルジックのNを冠したいところだ。但し展望窓の下は小さな尾灯があるのみで何かが足りない。と感じるのはつい往年の名車と比べてしまうからか。



Series 70000, the latest observation train, was first introduced in 2018 – Very glassy.

秋色の箱根を行くGSEは、赤の車体が紅葉や薄に良く映える。中:デザインのせいか2階運転室内高が低い印象で、運転士は無理な姿勢を強いられているのではと気になってしまう。前面展望窓両脇のピラーは黒にすると窓と連続感があるのに、何故か銀色で悪目立ちしているのが残念だ。



函嶺洞門(上)・旭橋(左下)・早川橋梁(右下)は国指定の重要文化財だ。函嶺洞門は迂回路完成後は閉鎖
され、無粋な金網が設置され遊歩道化もされていない。第64話でご紹介した函南同様、「函」は箱根を指す。
There are many old traffic historic sites that have been designated as national important cultural heritage.

箱根登山鉄道の箱根湯本~強羅間の路線紹介は前号に譲るが、江戸/東京の奥座敷として発展した長い歴史の蓄積があり、歴史的価値のある交通史跡や貴顕の別荘も多い。また日光京都奈良と並び早くから外国人観光客を誘致してきたので外国人の目を惹く独特の和洋折衷建築の宿もでき、今も一部が残る。箱根湯本に近い静かな温泉地、塔ノ沢前号参照)には明治からの歴史を誇る福住楼や環翠楼がある。塔ノ沢の湯本寄りにある函嶺洞門は正月箱根駅伝で必ずテレビに映る定番ポイントだが、外国人観光客を意識したそのデザインはなぜか中国風で、建設された1931年当時の日本が自国の伝統デザインに自信を持っていなかった印象を受ける。



上・中左。右下:凝った本館8号室は、洋風の列柱やアーチの間に寺院風の火灯窓と鯉の木彫りがあったり、明治の宮
大工の独創的な仕事は見飽きることが無い。窓辺の欄干や変わった形の照明は、竜宮城をイメージしているかのようだ。
After the Meiji Restoration, the Fujiya Hotel (Note: there are many hotels with the same name), a luxury inn
in Hakone-Miyanoshita, targeted wealthy foreign tourists. The main building (especially Ro. 8), built during
the Meiji period, is particularly interesting for its fusion of Japanese temple architecture and Western design.

堂ヶ島温泉には早川に下る自家用モノレール対星館やロープウェイ晴遊閣大和屋を持つユニークな宿があったが惜しくも取り壊された。富士屋ホテルは宮ノ下のランドマークで、明治期に建てられた本館は外国人の目を強く意識した寺院風の建築、洋館は日本における初期西洋建築の特色(欧米に多い石製円柱を単純化した角材等のシンプルな内部装飾)を良く表していている他、瓦屋根に唐破風との組み合わせも興味深い。最高に面白いのは明治期築の本館で、和洋がファンタジー豊かに調和している。特に8号室(2020年完工の耐震工事後の部屋番号)は洋風アーチや角材製模擬列柱と寺院建築風の火灯窓が混在して最高に楽しく、泊まるならここだ。レストラン「ザ・フジヤ」も、桟敷をイメージした間越し欄間や従業員を床から監視するオーナーの彫刻(中)が面白いが、乗物愛好家には意匠化された飛行船(左下 - 蕾では無い)も興味深い。建設当時、飛行船は最新鋭の夢の乗物だったのだろう。



上:深い木立を通して射し込む朝日溢れる清冽な強羅環翠楼の朝。青い屋根は錦華亭・八集庵。
左下:内湯は湯気抜きのある木製が風情があって良い。下中:昭和を知る世代にはサルと呼ば
れた雨戸のロック機構も懐かしい。右下:宮家別荘だった和洋折衷館を用いた強羅花壇本館。
In Hakone-Gora, there are still some old inns that were converted from the villas
of the founding families of the Mitsubishi conglomerate and the Imperial family.

登山線終点の強羅駅近くの三菱財閥を創業した岩崎家別荘を改造した強羅環翠楼には昭和天皇ご夫妻が宿泊された離れ「錦華亭・八集庵」もあるが、同じく岩崎家別邸だった伊豆北川の三養荘にも昭和天皇ご夫妻が宿泊された離れ「みゆき」がある。強羅環翠楼の隣には岩崎家から敷地の一部を譲り受けた宮家の洋館を本館とする強羅花壇等、歴史的な宿が妍を競う。



永らく超豪華列車の代名詞だったオリエント急行も、ななつ星・四季島・瑞風等のクルー
ズトレインが登場した現代に改めて見ると素朴に見えるから恐ろしい。バスタブ付個室が
続々登場しているというのに、天下のオリエント急行にはシャワーすら無かったのだ。
In 1988 thanks to the bubble economy, one trainset of the Orient Express made a
long journey from Paris to Tokyo across the Eurasian Continent. After many events
in Japan the trainset was returned to its Swiss owner (Intraflug AG) but one salon
car came to Japan again to be displayed in Lalique Museum in Hakone-Sengokubara.

強羅から車で約10分の箱根ラリック美術館にはオリエント急行のサロン車が保存されている。欧州を走っていた同車がなぜ箱根の山中にあるかは第9話でご紹介した。ラリックの作品で覆われ、アガサ・クリスティ原作の名画オリエント急行殺人事件で私立探偵ポアロHercule Poirotが全乗客を座らせて怪事件を糾明した舞台ともなった同型車でアフターヌーンティーを愉しむことができる。緊急制動装置の仏独伊英4か国語の注意書に、現役時代に遥か欧州(コロナ後すっかり遠く感じられるようになった)で活躍した痕跡が残る。



「Rhatische Bahn」はaにウムラウトが落ちており、「Hanspeter」はHans PeterかHans-Peterのいずれかでなければなら
ず(検索したらこの方は前者のようだ)、ペーターをピーターと英語読みするなど誤記が多いのは残念だが、ご愛嬌の範疇だ。
In Gora Park near Gora Terminal of the Hakone Tozan Railway, a German spruce planted by the Rhaetian
Railway, twinned with Hakonetozan Railway, has grown up to a big tree after elapse of four decades.

箱根登山鉄道の登山区間と鋼索線(ケーブルカー)の乗換駅である強羅駅の構内前号ご参照)と近くの強羅公園内には、RhBから贈られた樅ノ木の苗が40余年の時を経て大木に育っている。公園内のものは日当たりが良いせいかより高木に育ち、由来を記した説明版も存在するので寿命を全うできるだろう。解説板の無い駅構内の方は雑木扱いされて伐採されないか心配だ。



左上:傾いたホーム。左下:日本の鉄道会社はスライドドアの凹凸を気にしない。閉めても絶対面一に
ならない襖の文化の影響だろうか。閉扉時に車体と面一になるスイス製先代と比べると凹凸が目立つ。
A cable car connects Gora and Sounzan stations with further connections at both ends.

日本で2番目に古い(最古は生駒)箱根ケーブルカーは、スイスの技術をそっくり導入して建設された(最大勾配200‰)。2020年の設備更新で鋼索鉄道の動力装置である巻上機は引き続きスイス製が採用されたが、車両は表面が面一のユーロデザインのスイス製から表面が凸凹した国産に変わった。車内もロングシート化され、前後に傾いた通勤電車のようで興覚めだ。明星が岳(右上の山)の大文字を正面に見ながら足湯を愉しめる早雲山駅は良くできている。山の名は小田原を根拠地に関東を制覇した最初期の戦国大名、北条早雲から取ったのだろう。



上:二本の曳索を掴む新方式に変更され、素人目にも安定感が増した。左下:ドアをスラ
イド式としながら閉扉時に車体と面一にするには、このような形に溝を切る必要がある。
Hakone Ropeway, which connects Sounzan and Togendai at lake Ashinoko, employs
the "funitel" technology using two parallel cables. This Swiss technology contributes
to stable operation in bad weather, up to the wind speed of 30m/sec (108km/h).

早雲山(標高757m)から大涌谷(同1044m)乗換で桃源台(同741m)に至る全長4kmの箱根ロープウェイは、同5kmの六甲有馬ロープウェイが廃止された現在、日本最長の索道線で、コロナ前には輸送人員200万人を超え2009年にはギネス世界記録のゴンドラ・リフト部門で乗車人数世界一に認定された。同線も山岳交通最先進国スイスの技術で作られ、2002年の更新工事後はゴンドラを動かす曳索を2本にして、かつ等速で流れるこれら両曳索の間隔をゴンドラの車幅より広くして安定度を増したフニテル[註1]方式に改められ、秒速30m(時速108キロ)の風の中も運行できるようになった。ゴンドラの扉にはリンク機構があり閉扉時にはボディと面一になるプラグドアが欧州のDNAを示している。

 
[註1] 空中にレールが浮くように二本のケーブルが流れるところから、フニキュレールFuniculaire / ケーブルカーとテレフェリックTéléphérique / ロープウェイを合成した造語。


大涌谷は自然に湧出する温泉が少なく、地下水を大涌谷で噴出する蒸気に流し込んで作った湯を
強羅や仙石原の宿に供給している。活火山の噴火口で危険な作業は箱根温泉供給という会社が行っ
ている。右下:噴煙の通り道の山の樹木は火山性ガスで枯死し、灰で雪を被ったように真白だ。
The Hakone Ropeway, which runs over Owakudani, an active volcanic crater that spews out
smoke containing volcanic toxic gases, is closed to passengers with respiratory problems.

箱根ロープウェイ最大の見所は大涌谷付近の噴煙の峡谷を渡る区間だ。活火山の火口真上に索道を張るとは思い切ったことをしたものだ。風向によっては噴煙の中を移動する為、呼吸器疾患のある人は利用できず、そこは自己責任での判断となる。2015年には噴火警戒レベル3(入山規制)が発令、一時代行バスも含め全線運休となった。運転再開後も一時期は火山ガスの為大涌谷駅舎は建物外へ出ることが禁じられ、駅舎内すら一部立入禁止区域が設定された。状況が落ち着いている脱稿時(2021年秋)現在でも大涌谷駅近辺は立入禁止区域が残る。



大涌谷噴火口からの流路を上から見通した構図。砂防ダムが何重にも造られているが、既に土砂で満杯だ。
画像中程を県道734号が横切るが、駐停車や立ち止まりをしないよう警告板が立つ(右上白矢印付近)。
On Prefectural Road 734, which crosses between a series of erosion control dams on the north
side of Owakudani, there is a warning sign saying "Be careful of volcanic gas – DO NOT STOP!"

並行する神奈川県道734号大涌谷小涌谷線は現在通行可能だが、大涌谷火口直下の一帯は樹木も枯れたままで、火山性ガスを吸う虞があるので停車しないよう警告版が設置されている。火口上から北方を見通すと谷に沿って火山ガスが駆け下った様子は一目瞭然で、周囲の樹木は枯死したままだ。緑が復活する辺りから民家も点在し始めるが、この下には今も灼熱のマグマが出口を求めて煮えたぎっている筈だ。たかだか7-80年の人生において数世紀、或いは数十世紀に1度の大噴火のリスクをどう評価するかはなかなか難問[註2]だ。

 
[註2] 箱根山はこの3000年ほど静かだが、富士山の方は最後の大噴火は1707年だ。遥か江戸にも灰を降らせたこの宝永大噴火では山北近辺で「焼砂」が2尺(約60cm)も堆積したというから、より近い箱根旧街道は被害甚大だっただろう。


上:ビクトリー号の砲列。左上:芦ノ湖の水陸両用ダックツアー、Ninja Bus水蜘蛛号との邂逅。
下:木を多用した水戸岡ワールドが広がるクイーン芦ノ湖号の船内。追加料金不要の玉座もある。
Inspired by the concept of Disneyland in the U.S., which provides fantasy for adults to enjoy,
the cruise ships are shaped like sailing pirate ships. Of the three ships in the fleet, the Queen
Ashinoko, was designed by Eiji Mitooka, a famous contemporary industrial designer in Japan.

箱根ゴールデンルートの最終区間は湖上の海賊船だ。海抜723mの山中に山賊ならぬ海賊船とは面白い発想だが、アメリカのディズニーランドの発想を参考にしたという。平たく言うとお遊びに徹した訳だが、昔の西洋の帆船の特色を良く捉えて再現しており、観光地の湖に良くある白鳥の化け物船のような幼稚さを排し、大人も楽しめる凝り方をしているのが良い。脱稿日現在のフリートはビクトリー・ロワイヤルII・クイーン芦ノ湖(それぞれ2007・2013・2019年就役)の3隻体制だ。最古参のビクトリーはその名に相応しく砲列を並べ(勿論ダミーだ)船内に宝箱もどきもあり、天井の梁も一見原木風で最も海賊船のイメージに近い。



威風辺りを払うクイーン芦ノ湖号
The Queen Ashinoko gracefully navigates in tranquility

しかし乗るならクイーン芦ノ湖だ。JR九州等で活躍中の水戸岡鋭治のデザインで、金色の船体は箱根ゴールデンルートのトリを飾るに相応しい。静かな湖面を金色に反射させる船体・細々した英文字の装飾・ウッディな船内の組み合わせは、第71話でご紹介した、同じく水戸岡デザインの「或る列車」の船版という印象だ。



上:京口門(上)と江戸口門(下中)。いずれも安定感と威厳のある高麗門構造
だ。刺股等の痛そうな補具も展示されている。右下:湖面より遠望した関所全景。
The Hakone-Sekisho, one of the most famous barrier stations established
in Japan during the feudal era, was rebuilt and opened to tourists in 2007.

箱根乗物紀行の終点は箱根最大級の交通史跡、関所だ。幕府へのテロ活動(入り鉄炮)や人質脱出(出女)防止等の為に江戸幕府によって1619年に設置された関所は幕藩体制の崩壊によりその存在意義を失い、1869年(明治2年)に明治政府により取り壊された。後年その歴史的価値が認識されたものの関所の構造が不明で単に跡地が史跡とされていたが、韮山代官家だった江川邸(静岡県伊豆の国市、何の偶然か源頼朝の配流地・蛭ケ小島のすぐ近くにある)で発見された『相州御関所御修復出来形帳』に箱根関所の構造を記録した箇所があり、これを元に2007年に復元・公開された。関所裏の屏風山には関所破りを監視した遠見番所という監視塔も復元され、船上からもその威容を眺めることができる。

 

*  *  *



20年にわたった長期連載は今号で終了となります。ご愛読ありがとうございました。本75話までのバックナンバーは新たに立ち上げた<www.rail-eurasia.de>に閲覧可能な状態で格納しました。第76話以降は<note.com/rail_eurasia>で続ける予定です。また新ページ立ち上げを機に、登録文化財となっている温泉宿の紹介や富士山写真集など連載の幅を広げていく所存ですので、ご興味のある方はお訪ねください。最後の車内案内は「準急ユーラシア、次の東京で車両交換を致します」というところでしょうか。

(令和3年12月 / December 2021)
 

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資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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